店舗や施設の営業状況やサービス内容が変更となっている場合がありますので、各店舗・施設の最新の公式情報をご確認ください。
熊本弁はユニークな表現が多い!
熊本弁は全国でも人気が高く、「最も可愛い方言ランキング第2位」です。例えば「すごーい!」を「すぎゃーね!」と言います。また熊本県は「美男美女の多い都道府県第2位」でもあります。
熊本は、九州のほぼ中央部で、福岡弁や鹿児島弁に接しています。そこで、独特でユニークな特徴が熊本弁には多いのです。例えば道順を教えるのに「ぎゃんいって、ぎゃんいけばよか」(こう行って、こう行けばいいよ)と言います。「ぎゃん」は鹿児島弁の影響です。
「よか」は九州全体に通じますが「ぎゃん」は熊本弁特有の表現です。また「あさっぱち」も熊本弁特有の方言で、「あさっぱちからなんばしよったと?」(朝っぱらから何していたの?)と尋ねる場合、「~たと?」は福岡県の影響を受けています。
「熊本弁ってどんななの?」という全国の疑問に応えるように、2010年(平成22年)3月5日より、熊本県庁が水野学さんにデザインを依頼し、熊本県PRゆるキャラとして「くまモン」が誕生しました。「くまモン」により、熊本弁が更にユニークに、かわいいものになりました。
くまモン自体は「~したモン!」という語尾ですが、熊本のゆるキャラとして生まれたかわいいくまモンは「ゆるキャラグランプリ2011年度王者」となりました。くまモンのかわいいキャラクターで、熊本や熊本弁に意識が高まり、「熊本に行ってくまモンに会いたい」という人も増えました。
熊本弁とは
熊本は、九州の中央部に位置し、北は福岡、北東は大分、東隣は宮崎、そして南は鹿児島県に囲まれています。また、活火山である阿蘇山で有名ですが、西は有明海、島原湾、八代(やつしろ)海に接し、海の幸も豊富です。熊本弁は、福岡、大分、宮崎、鹿児島弁の影響を受けています。
熊本市は、人口67万人の「水の都」と呼ばれます。阿蘇山噴火によるカルデラ湖から湧き出る透明度の高い水は、熊本の宝です。市民が利用する水は、浄水処理を施さない天然地下水です。都民全体がミネラルウォーターで生活する街は世界でも大変稀有な存在です。
熊本弁は、豊かな自然の恩恵を受けながら、「肥後(ひご)」の言葉として成長と発展を続けました。古代より行政区分として、九州地方は、北部の福岡県は「筑前(ちくぜん)・筑後」、佐賀県及び長崎県は「肥前(ひぜん)」、鹿児島県は「薩摩・大隅(おおすみ)」と呼ばれていました。
そこで、平安時代では京の都から見れば、筑前・築後の国から厳しい瀬戸内海を渡り、上京した人々は「草深い田舎から来た者」と見なされていました。現在の福岡県に当たる筑前・筑後の国がとんでもない田舎だったため、京の貴族にとっては肥後の国の者とは言葉が通じませんでした。
肥筑方言に属する熊本で話される方言
熊本弁は、「肥築(ひちく)方言」に属する方言です。「肥築方言」とは、肥前・肥後・筑前・筑後の四か国の方言の総称です。つまり、熊本弁は、肥前・肥後(佐賀県・長崎県・熊本県)の方言と筑前・筑後(福岡県)を混合した言葉となります。
熊本弁に「おろいかばってん」という表現がありますが、「ばってん」は長崎弁で「~だけど」という意味です。そこで熊本弁「おろいかばってん」は「不良品だけど」という意味になります。
更に「なんでんかんでんよかたい」は「ん」を多用する熊本弁と、福岡県で広く使われる「よかたい」とのミックスです。そこで「おろいかばってん、なんでんかんでんよかたい」は「不良品だけど何でもいいよ」という意味になります。
大きく北部方言と南部方言に分けられる
熊本弁は、1種類ではなく、隣接する県との関係で、「北部方言」と「南部方言」とに大別されます。「北部方言」とは、「熊本北部方言・熊本東部方言」を指します。熊本東部方言とは主に「阿蘇部・上益城郡(かみましきぐん)北東部」で話される方言です。
「上益城郡」は、熊本県でも東部で、更に内部の「御船町(みふねまち)・嘉島町(かしままち)・益城町(ましきまち)・甲佐町(こうさまち)・山都町(やまとちょう)」の5つの町を指します。一番大きな町は山都町です。古来から肥後国でも奥まった地域でした。
南部方言は薩隅方言との共通点が多い
「熊本南部方言」は鹿児島県と直に接する地方の方言です。南部方言には3種類あり、「八代(やしろ)・葦北(あしきた)方言」と呼ばれる「やっちろ弁」がまず一つです。すぐ南が鹿児島と接する、八代市・芦北(あしきた)町・水俣(みなまた)市の方言です。
また「球磨(くま)方言」(くま弁)と呼ばれる言葉は、やはり鹿児島県と直に接する人吉市と球磨村で使われています。更に天草灘(あまくさなだ)を西に臨む天草諸島で使われている「天草方言」(天草市・上天草市)があります。
南部方言では、鹿児島県と接しているため、鹿児島県の方言「薩隅(さつぐう)」方言の要素が豊富です。そこで熊本南部方言は、敬語が「もす」になったり、「どん」(~だけど)を使います。
熊本弁の特徴
さて、肥築方言と薩隅方言とが混合して使われる熊本弁ですが、どんな特徴があるのでしょうか。やはり九州北部の福岡・長崎県の語尾や、鹿児島県の語尾とに熊本弁の特徴が見られます。九州中央部に位置する熊本県であるだけに、九州地方の方言が集まっているかのようです。
方言の語尾は、まず方言の特徴を強調するものです。熊本弁も、「よかよか」(いいね、いいね)や「よかったい」(いいよね)、また「~ばい」は「テーブルん上にチョコがあっばい」(あるよ)、「~なか」は「おもろなか」(面白くないね)など語尾の種類が豊富です。
尊敬語がよく使われる
熊本弁では、丁寧語や尊敬語がよく登場します。大阪弁では他人に対して「~してはる」という尊敬語を使いますが、熊本弁でも尊敬語は頻繁に使われ、挨拶や「ありがとう」などの言葉を必ず用います。熊本弁の尊敬語の特徴は、対人関係が柔らかくなるのに大変好都合です。
熊本弁では他人には尊敬語が普通に使われます。そこで「こちらの道ば真っ直ぐ行きなはって下さい」(行って下さい)と丁寧に言います。また「田中さんば、家におらなはっとですか?」(家にいらっしゃいますか?)と尊敬語が好んで使われます。
「~なはる」という熊本弁の敬語は、大阪弁の「~しなはる」と重なりますが、熊本弁では「~なさる」もよく使われます。「田中さん、今日来なさるとですか?」のように言います。
アクセントは基本は平坦
熊本弁のアクセントは、基本的に「無アクセント」です。熊本県のほぼ全域が低く平板な発音ですが、芦北町のある南部方言は、やや尻上がりのアクセントを用います。鹿児島県では、アクセントに高低の差が顕著に見られますが、熊本弁では1983年以降、無アクセントが定着しつつあります。
熊本弁のアクセントは、自分の名前の語尾ぐらいです。「さとウです」「すずキです」と発音します。逆に相手の名前にはアクセントが一切ありません。また、物の名や地名も無アクセントなので、福岡でも有名な繁華街「天神」を「テんじんさん」と言っても熊本人には通じません。
「~して」の「て」が「チ」になりさらに詰まる
熊本弁では、促音(詰まる音)が大きな特徴です。促音が熊本弁にかわいい雰囲気を作ります。例えば「お茶ば入れてあるっとばい」の「入れて」は「入れち」となります。次に「入れっ」と促音化するため、「あすけ(あそこ)にお茶ば入れっあるっとばい」といった発音になります。
また「困って」は「困っち」となり、次に「こまっ」と促音化します。そこで「困っている」は「こまっちょるたい」と熊本弁では言います。この促音化は他の音にも頻繁に多用されます。例えば「ある」を「あっ」と発音し、「本なこけあっ」(本はここにある)と表現します。
熊本弁での語尾の促音化といった特徴に慣れると、「熊本弁は面白くてかわいい」と感じるでしょう。促音化が特徴の熊本弁にはかわいい印象を抱き、独特の挨拶には人間味を覚えるものです。
「お」「え」の母音が「ウ」「イ」のような発音になる
熊本弁で発音を文法的体系にまとめると、まず母音に当たる部分が異なった音になります。「お」の母音部分は「ウ」のような発音になる特徴があります。母音が違う音に変換される特徴はかわいいものです。例えば「遅い」では「そ」(「お」を母音とする)が「オスカ」となります。
「オスカ」の「ス」は「ウ」を母音とします。また「本当のこと」では、「と」(「お」が母音)が「ツ」(「ウ」が母音)となり、「ほんなコツ」という熊本弁になります。
そこで、熊本弁の会話では「みっちゃん、オスカけん、どぎゃんすっと?」(遅いからどうしようか)と言ったり、「ほんなコツば、明日でもよかっと」(本当は明日でもいいのよ)と表現します。また「え」の母音が「イ」の発音にもなります。
「これ」では「れ」の母音は「え」ですが、熊本弁では「こリ」と言います。「リ」の母音は「イ」です。「あれ」も同様に「あリ」と言われます。「俺」を「おル」とも言います。そこで熊本弁では「おルが行くから」が促音化され、「オッが行くけん」となります。
熊本弁の特徴的な発音を一部ご紹介しましたが、実際には熊本弁の会話を実際に聞くうちに意味が掴めるようになります。「雨だけん、自転車の錆びてしもてこまっ」(雨だから自転車が錆びちゃって困る)や「うわっうったってかっ!」(わあ服決めちゃって!)などにも慣れるでしょう。
熊本弁の会話は、「こまっ」や「かっ!」など促音化が語尾に来たり、「~と?」といった福岡弁と同じ語尾になるなど、九州地方の方言のかわいい要素が凝縮されています。標準語を熊本弁に変換し、熊本弁を話す女の子と出会ったら、標準語にないかわいい魅力を感じるでしょう。
熊本弁の語尾
熊本弁の語尾では、「~たい」と「~ばい」が有名です。どなたも一度は聞いたことがある語尾ではないでしょうか。「~たい」と「~ばい」は、長崎でも使われます。長崎は、『ガリレオ』『龍馬伝』で一世を風靡した福山雅治さんの故郷であるため、注目を浴びました。
福山雅治さんが上京した頃は、長崎弁で「田舎もんばい」と周囲に言っていました。「~たい」と「~ばい」は薩摩弁と思われがちですが、熊本弁は福岡弁や長崎弁の影響が濃厚なため、「~たい」と「~ばい」の語尾は日常的に使われます。
「~たい」
「~たい」は、福岡でも長崎でも使われる、九州人には馴染みの深い語尾です。意味は「~だよ」となります。「どぎゃんしたるじゃろうかて、時々思いよったい」(どうしてるかと時々思っているんだよ)というように使います。福岡などでは「どげん」となります。
また、丁寧語、尊敬語の挨拶が多い熊本弁では、「思いよったい」に「ます」を入れ、「思いよりますたい」となります。「今どぎゃんしたる?」とラインが来た場合、「たい」は強調によく使われ、友人のスマホに「今は仕事しよったい」と返します。
「~たい」という熊本弁の語尾に似たものには、「~っちゃ」があります。「今日のランチ美味しかったっちゃ」や「明日は遊園地で遊ぶっちゃ」と使います。女の子が「時々あんたのこつば思いよったい」や「今日は楽しかったっちゃと」と言うと本当にかわいいものです。
「~たい」は客観的な要素が強い語尾でもあります。「ジャンプし過ぎて骨折ばしよっと」「そりゃ無理し過ぎったい」と相手をいさめる場合にも使います。「このパソコン壊れちょっと」「ウイルスバスター入れんからったい」というように使います。
「~なっせ」
「~なっせ」という語尾は、熊本弁独特の特徴です。他の県の人々が「一番愛情を感じる命令文」と感動するほど、人間味が籠ったかわいい熊本弁です。意味は「~しなさいね」と優しく勧める場合に使い、「こっち来なっせ」は「こっち来なさいね」です。
関西弁では「こっち来や(きや)」も優しい表現ですが、「来なっせ」には更に柔らかみがあります。食事を用意してもらい、「ぬっかうち、はよ食べなっせ」(温かいうちに早く食べなさいね)と言われたら、遠慮なくいただくのが良いでしょう。
「~ばい」
「~ばい」は長崎弁、鹿児島弁として知られている傾向があります。しかし、九州の中央に位置する熊本弁は長崎弁の影響を色濃く受けています。熊本県の人は「~たい」よりも「~ばい」は和やかな意味合いがあると言います。似ているようですが、地元の人は意識して使い分けています。
例えば「骨折したとね?そりゃあ無理ばするからばい」と言われたほうが、「無理ばするからったい」よりも優しい響きがあるのです。「~たい」はこの場合、やや厳しく聞こえて嫌だと感じるのが熊本の人々です。近年、年配の方々に限らず、「~ばい」は使われない傾向にあるとのことです。
熊本弁の挨拶
熊本の人々は親切で、他県からの観光客に「あっちゃん、こっちゃん(あっち、こっち)」と道を教えます。JR熊本駅では毎週、土日・祝日にボランティアの「旅先案内人おてもやん」の人々が熊本弁で行き先を教えてくれます。市電やバスの乗り換えもすべて熊本弁です。
「おてもやん」とは江戸時代から伝わる熊本民謡です。案内の方は「今からどこ行きなはっですか?」(行かれるんですか?)と丁寧に尋ねてくれます。市内見物だと伝えると「ここで市電を降りなはっと、左側の方にですね、熊本城が見えます」と軽快な熊本弁での道案内をしてくれます。
「熊本城ば眺めながら歩きなはっと、よかかと思います」との親切な案内には、遠方からの来訪者に、珍しい熊本弁でお土産を与えたいとの地元の人々の気持ちが伝わります。また観光客の人々は熊本弁を聞いて「熊本に来たんだなあ」と感動します。
心温まる案内に「熊本の人は真面目だなあ」と観光客の人々はしみじみとします。道案内を始め、熊本弁では挨拶を丁寧に交わすことが特徴です。また敬語をよく使い、熊本観光に来た人々に、一生忘れられない「ホットポット」のような熊本弁のサプライズを与えてくれます。
ありがとう
江戸時代の国文学者、本居宣長(もとおりのりなが)によると「肥後人(熊本人)は『見える・聞こえる』を『見ゆる・聞こゆる』と平安朝の貴族が使っていた雅言(みやびごと)を使う」とあります。古語から派生した熊本弁の挨拶は緩やかで穏やかです。
例えば「ありがとう」の挨拶を熊本弁では「だんだん」と言います。なぜ「ありがとう」が「だんだん」なのかというと、「だんだん」は元は「いろいろ」という意味でした。そして「だんだんありがとう」と言ううちに、「ありがとう」が略されて「だんだん」となりました。
京都では「ありがとう」を「おおきに」と言いますが、これも「おおきにありがとう」と言っていたのが、「ありがとう」が脱落した形です。西日本各地では、「ありがとう」が「だんだん」になる県は数多くあります。熊本県に限らず、島根県や愛媛県でも使われます。
「ありがとう」は日本語の挨拶の中で一番大切な言葉です。「ありがとう」の代わりに「だんだん」と言われると、とても温かい気持ちが湧いて来ます。独特の「ありがとう」の意味である「おおきに」や「だんだん」のファンだという人々がじかに聞きたいため、京都や熊本を訪れます。
「有難い」から感謝の気持ちとなった「ありがとう」ですが、日本には「ありがとう」の方言が51通りあります。秋田県の「ありがとう」は「おぎに」、福井県の「ありがとう」は「きのどくな」となります。熊本弁「だんだん」は「だんだんな~」と柔らかく表現するのが普通です。
日本語の挨拶で、またコミュニケーションで一番大切である言葉は「ありがとう」です。しかし場合によっては照れ臭くて言うことができません。その点、方言で「ありがとう」の代わりに「だんだんな~」と言うのは、気軽に口から出るのではないでしょうか。
じゃあね
熊本弁では、別れ際の挨拶として「ならね」を使います。「ならね」は元は「それでは」という言葉でした。「それでは」という別れの挨拶が「ならば」となり、「ならね」となったと言われています。標準語だと「それじゃあね」「じゃあ(ね)」と言うところです。
挨拶はコミュニケーションの潤滑油ですが、若い人を中心に短い言葉で交わされます。熊本弁の挨拶「ならね~」は博多でも使いますが、博多人は標準語と思っていたというケースがあります。
熊本弁の挨拶「ならね~」に「それ」を付けると、「それならね~」となり、標準語に近いニュアンスが出ます。そこで博多の人も標準語と勘違いしていたのでしょう。しかし標準語の「それじゃあね」よりも「ならね~」という挨拶はどこかかわいい響きがあります。
どういたしまして
2016年4月に起きた熊本地震では、全国からボランティアの人々が駆けつけました。そこで熊本の人々もくまモンキャラと共に「がまだせ!(がんばろう)熊本!」とプレートを掲げました。
熊本弁では「どういたしまして」を「なんのなんの」と言います。また「ああ駄目だ」を「ああワカラン」と言うため、ボランティアの人々に誤解を招くとして、福岡女学院大学が「熊本弁語彙集」を作成し、自由にダウンロードできるサイトを開設したほです。
「なんのなんの」は「なーん」と伸ばして「なあに、いやいや」という意味にもなります。「よかて、うちが出すけん」「なーん、よかったいね」(「いいの、私が出すから」「いやいやいいよ」)との会話は喫茶店の会計でよく交わされます。
熊本弁に変換すると意味が変わる言葉
熊本弁には実に独特な方言が多彩です。そこで、標準語を熊本弁に変換してしまうと、まったく意味不明となるケースが多く見られます。「あれは」という標準語を熊本弁に変換すると「あら」となります。
そこで、熊本の女性が「あらなんな?」と言うと、標準語圏内の人は「あら、何?」と言っているのかと勘違いします。また指示語の「あれ」を熊本弁に変換すると「あん」となり、「あんパンば欲しか」(あのパンが欲しい)は「アンパンが欲しい」と勘違いされてしまいます。
同じ日本人同士でも、お互い言葉が通じないという点では、方言は不便かもしれません。しかし、方言には方言の醍醐味があるからこそ、地方独特の味わいが深くなります。
あえる
「汚れが落ちる」を熊本弁に変換すると「あえる・あゆる」となります。「油汚れにゃ、お湯ば使うとあゆるったいね」(お湯を使うと落ちるからね)と使います。汚れが落ちない場合は「あえん」となり、「こん汚れは洗剤じゃあえんと」(洗剤じゃ落ちないね)と言います。
「あえる」を単独だけで聞くと「誰かに会える」と標準語では解釈されます。しかし熊本弁に変換すれば「汚れが落ちる」となるのはユニークです。色が褪せるのも「あえる」を使います。「新しい洗濯機に入れたら、模様のあえてしもうた」(模様が色褪せた)と表現します。
あご
「あご」は漢字に変換すると「顎」となり、顔の一部です。しかし「あご」を熊本弁に変換すると、面白いことに「話・口先・物言い」という意味になります。「あご」は熊本弁特有の言葉です。「関西人はあごが立つけんねえ」を標準語に変換すると「関西人はお喋りだからねえ」となります。
「あごが立つ」と言われて、顎がしゃくれていると言われたのかと勘違いする関西の人もいます。しかし顔の部分の「あご」ではなく、「口から出て来る話」を意味するのはユニークです。「あご」は皮肉にも使われ、「あやつぁあごばっかたいね」(あいつは口先ばかりだね)となります。
うちあう
「うちあう」は漢字に変換すると「打ち合う」になり、人が集まって相談する「打ち合わせ」になります。しかし「うちあう」を熊本弁に変換すると「関わる・相手になる」と意味が変わります。
「うちあう」は、「あぎゃんとに(あんな奴に)うちあいなすな(関わるな)」と表現したり、「うっちゃうな」とも言います。「もううっちゃいきれんと」(もう構ってられない)とも表現します。似た言葉に「うっちゃする」があり、「うっちゃすれとった」は「つい忘れていた」という意味です。
また良い意味で「うっちゃって~」とも熊本弁では言います。標準語に変換すると「構ってよ~」となります。熊本の女の子が男性に「うちんことば、うっちゃて」(私のこと構ってちょうだい)と言ったら、男性は「脈ありかな?」と判断できます。
おごる
標準語では「おごる(奢る)」を相手をもてなす場合に使い、「今日は俺が奢るからさ~」などと言います。しかし「おごる」を熊本で、東京にいる時と同じ調子で使うと、熊本人は「あれ?」となります。「おごる」を熊本弁に変換すると「怒る」となり、全く意味が違います。
熊本弁の「おごる」は「お前、おごるぞ!」(怒るぞ)や「今日先生におごられちょっと」(今日、先生に怒られちゃった)と使います。東京人が「今日おごるぞ!」と笑いながら言っても、熊本県民は「なーし(なぜ)おごって笑っとるね?」と思うでしょう。
おひめさま・おひめさん
目薬のメーカー『ロート製薬』が「ものもらいMAP」を作り、日本の各地域で「ものもらい」はどのように言われているかを調査しています。それほど「ものもらい」の表現は多岐に渡るようです。熊本弁で「おひめさま・おひめさん」と言うと「ものもらい」を意味します。
近畿ではものもらいを「めばちこ」と言い、宮城県では「ばか」、沖縄では「お友だち」と言います。熊本弁では「おひめさんのでけたごたある」(ものもらいができたみたいよ)と表現します。なぜ目にできた病気を、きれいな「おひめさま」と言うのでしょうか。
熊本弁の「おひめさま」は、若い世代も普通に使います。実際にはうっとうしい目の病気「ものもらい」を、わざときれいな言葉に変換し、心理的な負担をなくす意識が働いているようです。
かてる
「かてる」という日本語は「勝てる」ぐらいにしか使われないでしょう。ところが熊本弁に変換してみると、思いがけない意味になります。熊本弁で「かてる」は「加える」という意味です。「連休に博多巡りなら、うちもかてて」と使います。
熊本弁では「かてる」を「かてて」にし、「参加させて」という意味になります。「煮込んで味濃くなるけん、お湯ばかてて」(味が濃くなるから、お湯を加えて)のようにも使います。「かたる」とも言い、「おどんかたんなっせ」(あんた仲間になってね)と言います。
さす
熊本弁では、「花が咲く」を「さす」と表現します。すっきりしたオシャレな言い方です。例えば桜が咲いたら「桜んさしとる」(桜の花が咲いているね)と言います。「さしとる」を「さいとる・しゃあとる」とも表現します。
「さす」は、「あゆちゃん、まあ卒業式で桜んさしとうごたった」(卒業式では桜が咲いたみたいだった)とも使います。「あん人ばまあ薔薇ばしゃあとるごたったいね」(薔薇が咲いてるみたいだね)での「~ごたる」は九州で広く使われ「~のようだ」という意味です。
しきる
熊本弁「しきる」は、博多でも頻繁に使われます。意味は「~できる」となります。標準語「しきる」は「物事の処理を率先して行う」という意味です。熊本弁では可能性を意味することになります。
熊本弁で「ようしきったねえ」は難しいと言っていた相手ができた場合の褒め言葉で「よくできたねえ」という意味です。また「そぎゃんこつぁ、ようしきらんと」(そんなことはちょっとできないねえ)とも言います。相手が目上の人なら「やっぱしきらんとです」と最後に「~です」をつけます。
そこで標準語で「今度の忘年会は田中さんがしきるから(幹部を務める)」と言っても、九州の人には伝わらない場合があります。九州、特に熊本では標準語がどのように変換されているのかを知る必要があります。
わからん
標準語で「わからん」と言うと「意味が理解できない」となりますが、熊本弁の「わからん」は「駄目だ、いけない」という意味になります。熊本地震では崩壊した自宅を見て「家がびっしゃげとる、ああもうわからん」(家が潰れてもう駄目だ)と頭を抱える人も多かったでしょう。
ボランティアの人々が「とりあえず体育館に避難しましょう」と声をかけても「わからん、わからん」と熊本弁で連発されると「避難する」という意味が分からないのか、と誤解されたことでしょう。また熊本弁で「わからんじゃ」は「分からず屋」の意味になります。
ぬくい
熊本弁では「温かい」ことを「ぬくい」と言います。「ぬくい」は関西でも使われ、熱が高い時など、相手の額に手を当てて「ぬくいやん、熱あるんちゃう」と言います。そこで熊本弁での「ぬくい」も「温かい」を通り越し、「熱い」や「暑い」場合にも用いられます。
「ぬくい」は「今日はぬくかけん、冷房いるごたあるっと」(今日は暑いから冷房がいるぐらいだね)と使います。また寒い日にお布団にもぐり、「冬は布団がぬくてよかて」(冬場は布団があったかくっていいよね)と言います。「ぬくい」は標準語よりも優しい響きで、かわいい方言です。
熊本弁は難解だけどフレーズがとってもかわいい
熊本弁は、昔は「薩摩弁」と呼ばれた鹿児島弁との共通点もあり、気取らないかわいい方言です。熊本弁は、古くから育まれてきた人間味のある言葉です。人との対話において、丁寧な表現や、相手を思いやる言葉に満ちた熊本弁を覚えて、ぜひ熊本の友人を増やしましょう。