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多くの野菜やほうれん草に含まれる「シュウ酸」
ほうれん草は栄養豊富な野菜で食卓にいろいろな料理で登場していますが、困ったことに尿路結石の原因となる成分・シュウ酸を多く含んでいます。シュウ酸は調理方法を工夫すればかなり除去できるのでその方法を調べてみましょう。
シュウ酸(英語名oxalic acid)は18世紀にスウェーデンの化学者シェーレがカタバミ から単離したもので「HOOC–COOH」という構造式のジカルボン酸で多くの植物に含まれています。
シュウ酸は漢字で「蓚酸」と書きます。「蓚」は元々雑草一般を意味し、雑草のカタバミからシュウ酸が単離されたためこの字を使っているといわれています。訳語を作ったのは医師・蘭学者の宇田川榕庵で江戸末期に翻訳した化学書「舎密開宗」 (せいみかいそう)で述べています。
ほうれん草を始め食卓に並ぶ野菜や果実はシュウ酸を含んでいます。シュウ酸には水溶性のシュウ酸と不溶性のシュウ酸があります。ほうれん草の仲間であるアカザ科、あるいはタデ科・カタバミ科の植物はシュウ酸水素ナトリウムなどの形で水溶性のシュウ酸を含んでいます。
ほうれん草はタケノコとともに、特にシュウ酸含有量の多い食材として知られています。また、煎茶や抹茶として飲むお茶も乾燥重量比でほうれん草以上にシュウ酸を含んでいます。
ただし、お茶の葉を一回に摂取する量は非常に少ないため体内に入るシュウ酸も少なく、通常の摂取量ではほうれん草のように問題視はされていません。また、他の野菜に含まれるシュウ酸も通常の摂取量では尿路結石などの健康リスクはないとされています。
どうしてほうれん草のシュウ酸を除去するの?
ほうれん草にはシュウ酸が多く含まれています。気になるのはほうれん草の体内においてのシュウ酸の役割ですが、ほうれん草のシュウ酸は水溶性でカリウム塩やナトリウム塩としてほうれん草の細胞内にある液胞という袋状の細胞小器官に溜まっています。
ほうれん草は細胞内で新陳代謝を行い有機酸が生成されます。その有機酸を中和しカルシウムと結合させ難溶性のシュウ酸カルシウムとして細胞内にある液胞に溜め、代謝で生じた有害物を無害化しています。これがほうれん草におけるシュウ酸の大事な役割です。
一方、ほうれん草の場合とは違い、シュウ酸は人体に対してプラス面の栄養としての効果は無いと見られています。人体でも代謝の結果シュウ酸が作られますがほうれん草体内とは違い、人体にとってシュウ酸は老廃物で生成量も微量にとどまります。
人体では、シュウ酸を摂りすぎると必要なミネラル分の吸収が妨げられたり尿管結石などの病気が起こる可能性が指摘されています。このシュウ酸はほうれん草を始めとする野菜や果実由来です。動物質の食品にはほとんどシュウ酸は含まれていません。
カルシウムや鉄分の吸収を妨げる
人体には健康を保つために必要なミネラルが多数あります。シュウ酸が多いほうれん草や野菜を摂りすぎると食品中のミネラルを消化・吸収する前に食品中のミネラルがシュウ酸と結合して結晶化してしまうことがあります。
人体が食物からミネラルを消化・吸収できるのは水に溶けた状態の場合です。シュウ酸カルシウムなどシュウ酸と結合し結晶となったミネラルは吸収できません。
そのため、結晶化したミネラルは腸から吸収されず排泄され人体に必要なミネラルの吸収が阻まれることになります。ミネラルの中でも特にシュウ酸と結合しやすいカルシウムや鉄分の吸収に悪影響があるといわれています。
尿の中でカルシウムと結びつくと結石に
血液中で電離しているシュウ酸とカルシウムが接触するとシュウ酸カルシウムが生成されます。シュウ酸とカルシウムの結合力は大変強くシュウ酸カルシウムができると水に溶けてはいられず結晶となります。
人体に吸収されたシュウ酸は尿として体外に排泄されますが、シュウ酸カルシウムは尿路で凝集するため、ほうれん草のシュウ酸は尿路結石の原因となる可能性が指摘されています。
ほうれん草のシュウ酸が人の体内でカルシウムと結合すると尿路結石の要因となりますが、とろろ芋のような野菜は、ほうれん草とは違い人体に吸収される以前にシュウ酸がカルシウムと結合しているため腸から吸収されにくく問題とはなりません。
ほうれん草のえぐみ対策
ほうれん草を生で食べると苦さや渋さが混ざった不快な味を感じることがあります。これはえぐみと呼ばれるもので、口の中が荒れたり傷みを感じるような感覚です。
ほうれん草のえぐみは含まれているシュウ酸によるもので、ほうれん草を生で食べるとシュウ酸ナトリウムやシュウ酸カリウムとして溶けているシュウ酸が口中のカルシウムと結合してシュウ酸カルシウムの結晶となって舌などを刺激するためと考えられています。
ほうれん草のえぐみ対策としてはシュウ酸を除去するために茹でることがおすすめです。3分間茹でれば、ほうれん草のシュウ酸が回りのお湯に溶けて半減することが報告されています。シュウ酸が少なくなったほうれん草はえぐみも消え結石の心配はなくなります。
シュウ酸を含んだほうれん草のおすすめの食べ方
ほうれん草に含まれているシュウ酸の害を減らすためにも、またえぐみを除去し味を整えるためにも、茹でてシュウ酸を減らすことがおすすめです。ほうれん草を3分茹でることで、ゆで汁の中にシュウ酸を溶かし半減させることができます。
茹でてもシュウ酸はゼロになりませんが、ほうれん草の調理方法の指針としては茹でてから調理すれば結石を心配する必要はないとする意見が一般的です。
一方、生産者の側でもほうれん草のシュウ酸問題には対策が進んでいて、最近ではシュウ酸の含有量が少ない品種の開発も進んでいます。「サラダほうれん草」など従来のほうれん草とは違い生食できるというのがおすすめのほうれん草も販売されるようになりました。
カルシウムを含んだ食材と一緒に食べる
シュウ酸は腸から人体に消化・吸収されますが、シュウ酸カルシウムとして結晶化している場合は吸収されずそのまま便として排泄されます。このことからシュウ酸を体内に取り入れないためには消化・吸収より前段階でカルシウムと結合させてしまえば良いことが分かります。
ほうれん草のシュウ酸はカルシウムと結合しやすいので、ほうれん草を食べるときはカルシウムの多い食品と一緒に調理するとその食材に含まれているカルシウムがほうれん草のシュウ酸と結合することが期待できます。
シュウ酸を除去できるほうれん草の調理方法としては、ほうれん草のお浸しにカルシウムの多いかつお節を添える方法やカルシウムの多い牛乳とほうれん草のスープがおすすめです。
ほうれん草のシュウ酸を取り除くおすすめ調理方法
一通りまとめておくと、野菜に含まれているシュウ酸にはほうれん草のような水に溶けやすいタイプ、とろろ芋のような水に溶けない結晶タイプの2種類があります。
水に溶けにくい結晶タイプ(シュウ酸カルシウム)はえぐみや調理ですりおろすときに手がかゆくなる問題もありますが、人体には消化・吸収されず腸をそのまま通り抜け排泄されるので尿路結石には関係ありません。
一方、ほうれん草のような水に溶けやいタイプ(シュウ酸カリウム・シュウ酸ナトリウム)は腸から消化・吸収されてしまうので腸にたどり着くまでに調理の際に除去し、除去しきれなかった分はカルシウムの多い食材と一緒にした調理方法を工夫することがおすすめです。
「にがり」を入れたお湯で煮る
ほうれん草の調理方法で、まずおすすめしたいのが「にがり」を入れたお湯で煮る方法です。にがりとは海水を元に作った食品添加物で主成分の塩化マグネシウムに各種ミネラルが加わったものです。
ほうれん草を下茹でする時ににがりを入れておくと、ほうれん草のシュウ酸がにがりのマグネシウムと結合して水に溶けにくいシュウ酸マグネシウムを生成します。お湯を捨て、絞ればかなりのシュウ酸を除去できます。
分量は水1リットルに小さじ1杯程度で厳密でなくても大丈夫です。にがりを入れる調理方法はほうれん草の味にも良い影響があり味をまろやかに変え、えぐみ対策の面でも効果があります。
炒める時にも下茹でを
ほうれん草を炒めただけで調理するということは作った料理の外部にシュウ酸が出て行くわけではないので、この場合も下茹でしてシュウ酸を除去する必要があります。
シュウ酸は炒めて熱を加えるだけでは分解されたり無くなったりするわけではありません。まず、ほうれん草を下茹でして回りのお湯にシュウ酸を溶かして除去し、更にカルシウムの多い食材とともに炒める調理方法がおすすめです。
ほうれん草のシュウ酸は茹でれば安心!
尿路結石には体質を始め種々の要因があり、ほうれん草に含まれるシュウ酸だけで結石はできません。ほうれん草のシュウ酸の影響については数値的に不明な部分もまだ多く、ほうれん草にシュウ酸が少しでも残っていれば結石ができるというわけでもありません。
ほうれん草のシュウ酸対策は茹でてしまえば食べ過ぎない限り安心といわれています。シュウ酸については過度に気にしないでほうれん草の美味しさを楽しみましょう。